熊本城はとても有名なお城です。熊本に行ったら、必ずと言ってもいいほど、立ち寄る観光スポットではないでしょうか。熊本城の天守閣も素晴らしいのですが、今回は、「素敵な散歩道」というテーマですから、天守閣にたどり着くまでの、素敵な散歩道を紹介したいと思います。その美しい散歩道は、道特別見学通路といいます。この通路は2016年の熊本地震のあとに出来ました。地震によって甚大な被害を受けた熊本城でしたが、迅速に復興することが求められました。しかし、お城を復興させるのにかかる時間が20年ということがわかります。これでは、経済的にも観光資源としても損失が大きいということで、特別見学通路をつくり、復興途中のお城も見学してもらえるようにした、というわけです。いわば、工事そのものも見せるというコンセプトのもと、通路が整備されました。
マイナスをプラスに変えるといえば語弊があるかもしれませんが、地震による被害とその修復の様子も見学対象のひとつとするという発想の転換があったという点が興味深いと思います。実際、特別見学通路を歩いてみると、地震による被害の様子がよくわかります。また、普通のお城ではできない空中という視点からお城を眺めることができます。
例えばニューヨークのハイラインのように、都市空間を空中から、散歩をしながら眺めるというのは、新鮮でとても気持ちのいいものであるように感じます。熊本城もまた、場所は都市空間ではないですが、空中からお城を見られるというのは、似たようなものを感じます。そしてやはり、地震による被害の状況を目の当たりにするというのもなかなかできない経験です。連絡通路があることによって、地震がどれだけ大きいものだったがよくわかります。
この通路の建設にはいくつものハードルがあったようです。日建設計のホームページによると、針の穴を縫うようにこの見学ルートは設定されているといいます。例えば、多くの遺構があるため、堀削や樹木伐根はできず、杭も打てない。あるいは石垣の崩落が想定される範囲を避ける。また工事動線と分離する、といった制約があったといいます。その結果、大スパンアーチ構造や、1本脚で架構が成立する「リングガーダー構造」が採用されているのだそうです。見学通路はそれ自体美しいデザインだとも思えるのですが、あらゆる制約をクリアするために誕生した合理的なものでもある、ということなのです。
出典:日本設計HP「熊本城特別見学通路」より
熊本城の特別見学通路は、これまでにない場所、これまでにない構造のため、これまでにない景色を生み出しました。それは熊本城が経験した特殊な事情によるものではありますが、そこで生み出された景色もまた熊本城だけのもの、という点で行く価値があるといえます。